細密友禅の世界 訪問着『桜藤花楽』

美
細密友禅の世界 訪問着『桜藤花楽』
〜明治・大正期の工藝の美を追いかけて〜
どの時代の職人も、日々、先人の素晴らしい『美』から学び続けている。
私たちも少し博物館に足を運べば、19世紀初頭の日本の工藝が世界に解き放った先人達の美意識を、ごく間近に体感する事が出来る。
まだ電気も儘ならない時代において、信じられないほどの手間暇をかけたその作品達には、100年以上経った今でも、変わらない「本物の素晴らしさ」が有る。
当時の「職人による緻密なものづくり」に『美』の真髄を垣間見、感動する。
今、私たちはこれ程の根気と忍耐強さを持ち合わせているだろうか?
『ほんまもん』の、ものづくりとは何か?
そんな明治・大正期の工藝にインスパイアされた 手描き友禅染色家 南 進一郎 制作 訪問着『桜藤花楽』。
上品で、夢のように美しい細密友禅の世界に魅せられる。
明治・大正期の工藝
江戸時代、日本の工藝は幕府保護により、造形や装飾に写実的意識が加えられ、技巧を尽くした作品が数多く産み出された。
しかし明治期に入り、その技術を引き継ぎながらも、社会の仕組みが激変した為に、将軍家や大名家の後ろ盾を無くした『お抱え工人』達は行き場を無くしてしまう。
そんな時代の流れの中、職人達は国の殖産興業の煽りを受け、海外への輸出制作へと活路を見出して行く。江戸期に培われたその多彩な工藝技術が、結果として明治期初期〜大正期にかけ一斉に花開いた瞬間だった。
この時代、京都三条白川を中心として活躍した七宝家『並河靖之』は、近代七宝の原点『有線七宝』に拘り続けた。それまでに無かった艶や透明感の出る新しい釉薬の研究や、並河の右腕 中原哲泉の描く下絵の上手さもあり、その作品は度々国内外の博覧会において絶賛されることとなる。並河作品の中でも特に代表作『藤草花文花瓶』に注目してみる。
たった23センチの高さの壺に見事に咲き誇る白と紫の藤の花。そして下部に向かう長い房先には黄色い蒲公英(たんぽぽ)。繊細で優美な七宝細工は、有線七宝の金属線でさえ絵画の一部になっている。
「藤草花文花瓶」
そんな明治・大正期に活躍した有線七宝の大家『並河靖之』作品からインスピレーションを受け制作された、手描き友禅染色家 南 進一郎 制作 訪問着『桜藤花楽』。
咲き誇る藤、花瓶下方の草花の雰囲気を、緻密な細密友禅にて表現する。
肩から上前の豊かに垂れる『藤の花』と涼やかな『青紅葉』。
裾中央には、桜の枝葉が春風に優しく揺れている。
桜の花弁がハラハラと散り、それがいつしか蝶に生まれ変わり、、、
やがて、裾下部の菊を中心とした四季の草花の周りを楽しげに飛び回る。(「蝶」は元々並河家の家紋でもあり、並河靖之が好んで使ったモチーフ。)
今、明治・大正期の工藝のエッセンスは、南 進一郎の手により、上品で緻密な『纏う事の出来る細密の美』と成る。